素顔のままに 



前編



そうなるきっかけはもう覚えてない。
オヤジが息子でなきゃ自分の子じゃないとか、ふざけた事言ったとか、そんなことだったらしいけど。

結局オヤジはオレを捨ててアニキだけ連れていった。
残されたオレを、オフクロは必死で育ててくれた。

そんなオフクロを助けるのに、オレは「それ」を続けた。

やめなさい、ってオフクロは言ったけど。


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「さーるのー、風呂一緒にいかねえの?」

「あー・いい、いい!オレってば風呂は一人主義だから!」

「何だよー。男同士ハダカの付き合いしよーぜ?」

「だーかーら、いいっての!!」


今日も結局ダメだった。


そう思いながら、村中由太郎はため息をつきながら大浴場を訪れた。

脱衣所には埼玉選抜のメンバーが既に大勢来ていた。

「…なんか元気ないね…由太郎。」

「沖〜お前も来てたのか〜。」

「やあ由太郎くんか。…猿野くんは一緒じゃなかったのかい?」

「あ、牛尾さん。
 さるのは誘ったんだけど…断られちゃって。」

「あ〜兄ちゃんてあんまり人前でおフロ入らないんだよね〜。
 合宿の時は一緒だったけどなんか女装しっぱなしでさ。」

「そういえば、明美くんのままだったね。」

「…なんすか、その明美って。」

「あ、そっか〜兄ちゃんこっちに来てからは練習が忙しくて明美ちゃんスタイルにならないもんね。
 御柳くんとかは知らないんだ。」

「…コラ、なんかむかつくぞその言い方。」

「ミヤ〜〜嫉妬してる気?(* ̄m ̄) 」

「そ、そんなんじゃねえっすよ!」

「でも残念だな〜猿の兄ちゃんとお風呂入りたかったのに。」

「…まあ確かに残念じゃのう。」


と、そんな風に和気あいあいと話し合っていた。

だが、その時。



「……天国ト風呂ダト…?」


地の底を這うような声がその場に響いた。


「てめえ…。」

風呂場から現れたのは豊臣高校3年、雉子村黄泉。

その姿を見て、御柳は甲子園での第一試合の恨みか、即効でにらみを利かせた。
何よりこの男が天国を名前で呼んでいることにも気に入らなかった。


「雉子村くん…何か用かな?」
だがその場を割っていったのはこの中で一番分別があるだろう牛尾だった。

「今…天国ト風呂ニ入ル…ト言ッタナ…。」
その二度目の言葉に牛尾も少なからず眉をひそめる。


何故この男が、自分の可愛い後輩(それ以上に思っているが)を気にするのか。


だが次に出た言葉に、そこにいた全員が意識を凍らせた。



「天国…猿野天国ハ、俺ノ妹ダゾ…?!」



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再会した時、男のように野球のユニフォームを着ていたからおかしいとは思った。
だがこの国では女生徒がクラブのマネージャーという雑用係をすることが多いと聞く。

だから天国も「それ」だと思っていたのだ。


だが、今聞いた話から、天国がまだ「あれ」をしていることを知った。


だから慌てて、あいつのところに行った。



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「天国!!」

「わ!!」

案の定、天国は特訓のための部屋にまだ残っていた。
そして一度汗だくの身体を拭くためにTシャツと…いつも巻いているサラシを解いていた。

今の時間なら、仲間は皆入浴しているはずだと思っていたので、油断していた。


しかしそこに…兄が、来た。

驚いて…胸を隠した。
幼い頃と違う、ふっくらと成長した胸を。


「あ…アンタ、なんでここに…?!」

「…天国…。」


「で、出てけよ!着替えるから!!」


「…オ前…マダ、ソンナ事ヲ…?」


「…。」


天国はTシャツだけを羽織ると、兄に向き直った。


「何デダ…?親父カラ離レテモ…マダ男ノ姿ヲ続ケテ…?」


「…アンタには関係ない。」


「関係ナイ…関係ないはずないだろうが!!
 じゃあ何のために俺は…。」

「…兄さん…?」

「……っ…。」


黄泉は言葉を詰まらせるが…もう一度、聞いた。

「なぜ…?」


「…母さんのため…だよ。」


「オフクロの…?」


天国は一つ、息を吐くと。


「…アンタたちがアメリカに行って…それから母さんは…一人で、店を始めたんだ。
 今も、頑張ってる。」


「……。」


「そんな姿を見て…守んなきゃって思った。
 もう意地にもなってた。

 俺自身も、親父がいないって苛められたよ。
 それにも負けたくなくて…いつのまにか、こうしてるのが普通になってた。

 …そう思い込むようにしてきて…そして十二支に…入った。

 …そこで凪さんに…会って……。」

「ナギ?」


「野球部のマネージャーをしてる女の子…。
 彼女、俺がこうなりたいって思ってた女の子そのものだった。
 だから……何かしてあげたいって思ったんだ。

 それが……こんな形でも。」


「…そんな…ことで…?」

「アンタにしたら、そんなことだよね。…俺だってそう思う。
 でも…それしかできなかった。

 このままでいることしかできなかった。

 一度はやめようと思ったけど…実際やめるって、言ったこともあったけど…。
 今の場所にいたくて…今の場所にいるにはこのままでいるしかなくて…
 
 もう…。」


「天国…っ。」



スラリ。



その時、戸があく音がした。



                              To be Continued…



よんチョコさま、大変遅くなって申し訳ありません!
しかもまた続いてスミマセンでした!!

今回かなりの難産で…なんだかエセシリアスみたいになってしまいました…。
このあとチビ4人組にどう絡むか?!

…頑張ります!!


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